1 ポロサス(スモールクロコダイル)とは?

1 ポロサス(スモールクロコダイル)とは?

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エキゾチックレザーの代表格、そしてその最高峰として挙げられるのがクロコダイルレザーです。野性的な佇まいは男性的でありながら、逆に、その模様の美しさからは洗練された大人の印象を与えます。「腑(ふ)」と呼ばれれるその模様は丸と四角の2種類で構成されますが、それがまるで生命の証であるように、一つとして同じものは存在しません。

 

しかも丈夫で長持ち。その強度は牛革を十分に凌駕し、レザーアイテムの魅力であるエイジングを長年に渡って存分に楽しめます。一般的にレザーの財布の寿命は23年ほどですが、クロコダイルであれば20年近く愛用されてなお現役という例も少なくありません。

 

ぶ厚い角質層に覆われた革は強度・耐久性に優れ、さらに、軽くてしなやかという特性も兼ね備えます。その利便性の高さからクロコダイル革はレザーマテリアルの究極と言って差し支えないでしょう。

 

古今東西の紳士諸兄に愛されてきた『野生のラグジュアリー』。それがクロコダイル革であり、日本では『革の宝石』として審美眼のある大人の男たちの趣向品としてその頂点に位置します。

 

しかし、「ラグジュアリーは金になる」のです。そのため世界中でクロコダイル革の偽物が氾濫した時代がありました。

 

そもそも、クロコダイル革は「ワニ革」の一種です。そしてワニ革は3種類に分類されます。クロコダイル、アリゲーター、カイマンの3種類です。アリゲーターはダイナミック、カイマンはワイルド等、それぞれに魅力がありますが、柔らかさ・美しさ・品格を求めるのであればクロコダイルとなります。しかし、まだインターネットが存在しない頃にはこのような区分があることなど一般的には知り得ない情報です。知っていたとしても実物を見比べることなどできず、結果としてマーケットには“クロコダイルの偽物”が大量に流通していきました。

 

こういった流れの中で、クロコダイルの流通はヨーロッパの高級ブランドや各国の有力な輸入業者に“保護”されていくこととなりました。結果としてクロコダイル製品の品質は『安定』しましたが、次に『選別』の道を辿ることは歴史的にも避けられないことです。

 

ラグジュアリーとは、『選別』によってその価値を高めます。そうして次の主役になったのが『ポロサス(スモールクロコダイル)』でした。

 

ワニ革は3種類に分類され、そのうちの一つがクロコダイル革と申し上げました。このクロコダイル革はさらに4種類に分かれます。

 

1,スモールクロコダイル(イリエワニ)

2,ナイルクロコダイル(ナイルワニ)

3,ラージクロコダイル(ニューギニアワニ)

4,シャムクロコダイル(シャムワニ)

 

最初のスモールクロコダイルが通称「ポロサス」とされるものです。この4つは生物学的な分類ですが、その模様(腑)がそれぞれに異なります。ポロサスと他の3種を比較すると、他のものはやや大きいのです。

 

しかしこれは比較の問題で、あくまでポロサスと比較して大きいだけです。他の3種もまごうことなきクロコダイル革であり、十分になめらかで、男性的で、品格があり、美しい。エキゾチックレザーの頂点の一角であるのは間違いありません。

 

ただし…。ポロサスが美しすぎるのです。

 

ポロサスの最大の魅力は、その細かく整った鱗模様。腹の四角の鱗の模様(竹腑)はまるで規律があるかのように美しく配列され、脇腹の丸い鱗の模様(丸腑)へと繋がっていきます。この時、上質なポロサスでは1つの竹腑に対して2つの丸腑が整然と配置されています。まさに自然が生み出した奇跡であり、あまりにもバランスの良いその様から『黄金比を持つクロコダイルレザー』と称賛されています。

 

きめ細やかで、繊細。ポロサスすなわちスモールクロコダイルの「スモール」とは、この、鱗が「小さく細かい」ことを指している言葉なのです。

 

そして、この神様が計算して創り上げたような、野生から生まれた奇跡の芸術品を、ヨーロッパの超一流メゾンが見逃すはずはありません。

 

全世界に流通するワニ革は年間およそ100万枚が原産国より出荷され取引されています。そのうち約半分をクロコダイル革が占めるのですが、ポロサスの占める割合は全体の約7%(約7万枚)となります。

 

この希少な『頂点』に君臨する素材をまず真っ先に奪い合うのは、やはり『頂点』に君臨するブランド達です。HERMES(エルメス)をはじめとするヨーロッパの超高級メゾンは特に良質なポロサスを入手するために世界中で様々な手を尽くします。特にエルメスの革への情熱は『異常』であり、世界最高峰のタンナーを買収・独占契約することもありました。

 

ポロサスの革は、クロコダイル革の中でも最も高く評価されているが故に、流通している大部分がヨーロッパの服飾ブランドによって独占状態となっています。

 

一般への流通量はごくわずかです。その希少性の高さからポロサスの革は今なお高値で取引されております。(ここに辿り着いている紳士諸兄であれば、エルメスの“ポロサスバーキン”がいくらであるかはご存じのはずです)

 

また、野性のクロコダイル自体が絶滅の危機に瀕しており、ワシントン条約の保護対象となっていることも重要な話です。自然環境の破壊による生息地の消滅、水質の汚染に加えて乱獲による個体の減少は、多くの種類のワニに及んでおり、ポロサスもその例外ではありません。現在、製品に用いられるワニ革のほとんどは養殖によるものとなります。

 

養殖で育てていると言っても、飼育は限られた環境でしか出来ません。ある程度成長すれば凶暴な性格が頭角を現して、ワニ同士で傷つけ合うようになってしまいます。そのため孵化してから一定の大きさまで育ったら、個室で育てることが必須となり、餌代や大型設備に費やす費用、人件費など莫大な予算が必要となります。市場価格は今後も上昇していくことでしょう。

 

そして、ここが今回重要なのですが、養殖だということは「ビジネス」の側面もあるということです。希少価値の高いポロサスクロコダイルは、大手メゾンが優先的に確保する。この構造が崩れることは考えづらく、よほどの信頼、つまり『仕入れ能力』のある業者でなければ、そもそもポロサスを入手することすら難しいのが実情です。良質なポロサスを大手メゾンに混ざって買い付けができるのは歴史と実積のある一握りの業者に限られます。

 

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